忘年会シーズン、久々に友人たちと集まったとき、「転職して新しいことを始めた」「副業を立ち上げた」「資格を取ってキャリアチェンジした」そんな話題で場が盛り上がることがありますよね。
話を聞きながら、素直にすごいなと思う一方で、心のどこかがざわつく。自分だけがずっと同じ場所に立ち止まっているような感覚に襲われた経験はないでしょうか。
普段はそれなりに楽しく働いていて、仕事に大きな不満があるわけでもない。それでも、周囲の変化が目に見えた瞬間に、「なぜ自分は動けないのだろう」「挑戦する勇気がないのではないか」そんな問いが頭をよぎり、必要以上に自分を責めてしまう人もいるかもしれません。
この感覚は、30歳前後で特に強くなりがちです。仕事では一定の経験を積み、周囲からの期待も高まる。一方で、ライフスタイルや価値観、将来の選択肢について考え始める時期でもあります。
責任が増えるほど、身動きは慎重になっていきます。その中で、「このままでいいのだろうか」という違和感だけが残り、何をどう変えればいいのか分からないまま、立ち止まってしまう人も少なくありません。
本記事では、はっきりと言語化できないそのモヤモヤの正体を整理しながら、キャリアのプロの視点を交えて、次の一歩のヒントを探っていきます。
なぜ、自分だけが変われないと感じてしまうのでしょうか。キャリア相談の現場で多く見られる背景には、いくつかの共通点があります。
チャレンジには不確実性が伴います。失敗したらどうしよう、今より条件が悪くなったらどうしよう…。相談の中でよく見えてくるのは、恐怖の正体が失敗そのものではなく、選択を誤った自分を認めることへの怖さであるケースです。後悔したくない気持ちが、行動を止めてしまいます。
人は無意識のうちに他者と自分を比べています。特に、同年代や昔からの友人は比較対象になりやすい存在です。相手の変化は成果だけが切り取られて見えるため、そこに至るまでの迷いや試行錯誤は見えません。その結果、自分の現状だけが停滞しているように感じてしまいます。
これまで積み上げてきたキャリアがあるからこそ、この道を外れたら無駄になるのではないかという思考にとらわれます。別の可能性を考える前に、自分で選択肢を狭めてしまう。こうした状態が、変わりたいのに動けない感覚を強めていきます。
これらは意志の弱さによるものではありません。多くの場合、感情や情報がまだ整理しきれておらず、その途中で立ち止まっている状態にすぎないのです。整理が進めば、少しずつ見える景色も変わっていきます。
ミライフのキャリアデザイナーの田代は、この「変われない感覚」について次のように語ります。
「多くの方が、変わるなら一気に人生を変えなければいけないと思い込んでいます。でも実際には、そこまで大きな決断をしなくても、変化は起こせます。大切なのは、変われる自分を実感できる小さな行動を重ねることです」
田代 章悟
Career Designer
一貫して人材エージェントとしてのキャリアを築いており、1社目では、外資系コンサルティングファームや日系大手総合コンサルティングファーム、IT・SaaS企業などをメインクライアントとして、採用計画から要件定義の再設計まで一貫して担う採用コンサルティング活動に従事。大手クライアントの社外人事としての役割を担っており、企業側の採用目線にも精通。
その後、株式会社アサインに参画し、20代30代のハイクラス層を中心にキャリア支援を行う。転職後の中長期的な伴走支援を担うプロジェクトの責任者として戦略から実行までをリードし、既存営業組織の立ち上げにも従事。
ミライフでは両面型のエージェントとして、「人生を中心に据えたキャリア選択」をモットーに、20代30代のセールス職を中心としたキャリア支援に取り組む。
特に重要なのが、チャレンジ前に感じる恐怖心との向き合い方です。
恐怖を感じること自体は自然な反応です。感じないようにする必要はありません。大切なのは、その恐怖を漠然としたままにしないこと。何が一番不安なのか、最悪の場合どうなるのか、それは本当に起こり得るのか。言葉にして整理することで、恐怖は具体的な課題に変わります。
まず取り組んでほしいのは、変化や新たな挑戦を考える前に、今の仕事を棚卸しすることです。職種名や会社名ではなく、日々担っている役割を書き出してみる。例えば、「営業職」という一括りから一段掘り下げて、調整役、企画を形にする役、プロジェクトを率いる役…など、役割を具体的に言葉にしてみてください。
「キャリア相談では、変われないと感じている人ほど、自分の仕事を一括りで捉えている傾向があります。役割単位で整理すると、すでに身についている強みや、他の環境でも活かせそうな要素が見えてきます。これは、今後の選択肢を考えるための土台づくりになります」
大きな決断ではなく、仕事の進め方の中で選択を一つ変えてみる。いつも受け身で引き受けていた業務に対して、自分なりの改善案を出してみる。関わり方を少し変えてみる。
「キャリアにおける変化は、環境を変えることだけではありません。今の場所で主体的に選ぶ経験を積むことが、自分は選べるという感覚につながります。この感覚がないまま変化を選んでも、同じ悩みを繰り返してしまうケースは少なくありません」
興味のある業界や職種について調べて満足してしまう人は多いですが、一歩踏み込んで、人に話を聞くところまで進めてみてもよいかもしれません。実際にその仕事をしている人の話を聞く、キャリア相談を利用して言語化を手伝ってもらうなど、外の視点を入れることがポイントです。
「頭の中だけで考えている不安は、実態よりも大きく膨らみがちです。情報を立体的に集めることで、恐怖の正体が具体化し、検討可能な選択肢に変わっていきます」
営業職として一定の成果を出し、上司からの評価も安定していたAさん。
周囲から見れば順調なキャリアでしたが、30歳を迎える頃から、将来に対する漠然とした不安を抱くようになりました。転職した友人の話を聞くたびに、自分は何を積み上げているのか、このまま年齢を重ねたときに何が残るのかと考えてしまう。それでも、今すぐ会社を辞めたいわけではない。その曖昧さが、行動を止めていました。
相談を通じて整理していくと、彼の不安の正体は収入や待遇ではなく、専門性が見えないままキャリアが進んでいくことでした。
そこで選んだのは、すぐに転職することではなく、社内外のプロジェクトに自ら手を挙げて関わること。営業という軸を持ちながら、少しずつ関わる領域を広げていきました。
結果として、自分はどんな価値を提供したいのかが言語化できるようになり、選択肢を検討する視点そのものが変わったと言います。大きな変化を起こしたわけではありませんでしたが、動いたことで初めて見えた景色がありました。
Bさんは、専門職として忙しい日々を送りながら、後輩育成やチーム内の調整役も任されるようになっていました。
仕事自体にやりがいは感じていたものの、気づけば目の前の業務を回すことで精一杯。この先も同じペースで働き続けるのだろうか、とキャリアの次の段階を考えたとき、具体的なイメージを描けずにいました。
彼女が抱えていた違和感は、仕事が大変だからではありませんでした。「選んで働いている感覚」が薄れ、期待される役割に応え続けるなかで、自分がどうありたいのかを後回しにしてしまっていたのです。
キャリア相談では、すぐに転職を前提とするのではなく、まずこれまで積み上げてきた経験や強み、仕事を通じて大切にしてきた価値観を整理するところから始めました。そのプロセスを通じて見えてきたのは、専門性を活かしながらも、より主体的に仕事や環境を選びたいという思いでした。
当初は、社内外でのプロジェクト参加や学び直しといった選択肢も検討しましたが、整理を重ねるうちに、今の環境では実現しにくいこと、環境を変えることで広がる可能性があることが、徐々に明確になっていきました。
そうして検討を重ねた結果、Bさんは転職という選択をします。それは「逃げ」や「勢い」ではなく、自分の軸を言語化したうえでの、納得感のある決断でした。新しい環境では、これまでの専門性を活かしながら、自分で選び取った役割と向き合っています。
振り返ってBさんは、「転職したこと」よりも、「自分のキャリアを自分の言葉で整理できたこと」が大きかったと語ります。整理の先にあった選択肢のひとつが、結果として転職だったのです。
変われないと感じる瞬間は、自分の価値観や本音に気づくサインでもあります。比較して落ち込む気持ちを無理に消す必要はありません。その違和感を、次の行動のヒントとして扱うことができます。
まずは今日紹介した中から、一つだけ試してみる。大きな変化 結論を急がなくても構いません。
小さな行動を積み重ねるうちに、気づけば選択肢の見え方が変わっていることもあります。もし今、自分一人では整理しきれないと感じているなら、誰かと一緒に言葉にすることも一つの方法です。
無理に答えを出さず、自分のペースで向き合う。その過程そのものが、すでに変化の一部なのかもしれません。もし、キャリアだけでなく人生全体の視点で整理したいと感じたときは、私たちを頼ってくださいね。